Research Report 05

作業療法でAIはどこまで使われているのか

リハビリテーションAI研究の現在地と、作業参加に残る空白

著者
Daiki Morimoto(Unknown Lab)
公開日
2026年8月10日
文書
Version 1.0・未査読
ライセンス
CC BY 4.0
ORCID
0009-0009-6444-750X
作業療法士と本人を中心に、動作分析、遠隔支援、ウェアラブル、記録、地域生活を表す場面がつながるAI研究地図
AIの性能だけでなく、本人の生活、作業参加、支援者、公平性まで評価範囲を広げる。

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AIは、作業療法の外にある遠い話ではなくなっている。評価、予後予測、運動練習、支援技術、遠隔支援、教育、記録、相談の周辺に、すでに研究と試行が出ている。

ただし、現在の根拠を強く読みすぎてはいけない。リハビリテーション全体ではAI研究が急増しているが、研究は神経・整形領域、運動や評価、技術性能に寄りやすい。作業療法固有のAI研究はまだ少数で、本人の意味ある作業参加、地域生活、家族・支援者の負担、公平性を主要アウトカムとして測る研究は不足している。

だから、この記事の結論は「AIを使うべきか、使わないべきか」ではない。見るべき問いは、「そのAIは何を測り、何を測っていないか」である。

はじめに

ある作業療法士が、AIで記録の下書きを作れるツールを見せられる。画面には、評価、目標、介入案、注意点が短時間で並ぶ。便利そうに見える。忙しい現場では、これだけで助かる場面もある。

しかし、次の問いが残る。

その下書きは、本人が本当に戻りたい作業を捉えているだろうか。家族が支えている時間は見えているだろうか。地域の交通、住宅、制度、支援者との関係は入っているだろうか。AIが得意な運動や分類の指標だけで、作業療法の成果を置き換えていないだろうか。

この問いを考えるために、作業療法とリハビリテーションにおけるAI研究の現在地を整理する。

方法

この記事は対象限定レビューである。2026年8月9日までに確認できた、作業療法、リハビリテーション、AI、生成AI、職能団体方針、医療AI倫理に関する査読論文・公的資料・職能団体資料を対象にした。

PubMed、PMC、出版社ページ、J-STAGE、KCI、WHO、AOTA、WFOTを優先し、製品宣伝や方法が確認できない二次記事は主根拠にしなかった。リハビリテーション全体の研究と、作業療法固有の研究は分けて読んだ。

まず、リハビリテーション全体ではAI研究が増えている

Moroneらのliving systematic mapping reviewは、2014年12月から2024年12月までのAIリハビリテーション研究を調べ、4,193件から240研究を採用した。採用研究の80.4%は2020年から2024年に発表されたものだった。

対象領域には偏りがある。研究は神経リハビリテーションが57.9%、整形リハビリテーションが22.7%で、脳卒中、パーキンソン病、切断などが中心だった。用途は介入23.8%、予後17.5%、評価16.7%、診断12.9%、モニタリング12.5%に分かれていた。

これは、AIがリハビリテーションの多くの段階に入り始めていることを示している。ウェアラブルセンサー、ロボット、デジタル技術、表面筋電、モバイルアプリ、EEGなどと組み合わされる研究も多い。

しかし、同じレビューは慎重な読み方も求めている。比較群がない研究は50.8%、外部検証は5.8%、説明可能性は10.2%にとどまった。つまり、研究数が増えていることと、日常臨床で安全に広く使えることは同じではない。

作業療法固有の研究は、まだ薄い

作業療法に対象を絞ると、研究地図はかなり小さくなる。Bak & Yooは、作業療法分野のAI活用を2005年から2025年まで検索し、採用研究は7件だったと報告している。深層学習、機械学習、アルゴリズムが使われ、認知機能、日常生活活動、身体機能、心理機能に肯定的な結果が示された。

この結果は重要である。AIが作業療法の評価や介入へ入る入口があることを示すからである。一方で、7件という採用数から「作業療法でAIの効果が確立した」とは言えない。

Kansizoglouらは、作業療法とAI、人間-コンピュータ相互作用を扱うスコーピングレビューを発表している。これも、研究領域を地図化する資料として有用である。ただし、スコーピングレビューは「どのような研究があるか」を整理する方法であり、効果を確定するものではない。

日本語資料でも関心は高まっている。石岡は日本作業療法士協会の学会誌『作業療法』で、AIが評価支援、介入支援、業務効率化、教育などで導入試行されていると述べている。これは国内の職能上の関心を示すが、巻頭言であり、効果研究ではない。

生成AIは作業療法士の代わりになるのか

生成AIについては、さらに慎重に読む必要がある。Değerliらは、111人の作業療法士とChatGPTに、3症例に関する9つの質問へ回答させた。モデルや評価、介入について、一部の症例では差が見られなかったが、他の症例では差があった。

著者らは、AIの可能性を認めつつも、作業療法士は複数の要因と個別性を統合して判断する点で、アルゴリズム的な推論と異なると結論づけている。

この研究から言えるのは、「生成AIが一部の問いに、作業療法士に近い回答を出す場合がある」ということである。「作業療法士を代替できる」ということではない。症例数、設問、評価方法、実際の面接や環境評価の有無が限られるからである。

AI研究が測りやすいものと、作業療法が見落としてはいけないもの

AI研究は、数値化しやすいものを扱いやすい。歩行、関節運動、画像、センサー、分類、予測、反応時間、誤差、利用回数などである。これらは重要である。転倒予測、運動練習、支援機器、遠隔モニタリング、予後予測では、技術性能が一定の意味を持つ。

しかし、作業療法の成果はそれだけではない。本人が買い物へ行けるようになったか。学校や職場で役割を取り戻せたか。家族に新しい負担が移っていないか。AIを使えない人が支援から外れていないか。本人が説明を受け、断り、切り替えられるか。

この領域は、AIの性能指標だけでは見えにくい。

したがって、AI研究を読むときは、少なくとも5段階で分ける必要がある。

段階注意点
技術性能精度、感度、特異度、分類性能実生活の利益とは限らない
臨床機能運動、認知、ADL、痛み、心理統計的差と生活上の意味を分ける
実装利用率、継続率、専門職負担、費用、安全支援者の見えない労働を測る
生活作業参加、社会参加、地域生活本人の意味を主要アウトカムにする
公平性非利用者、離脱者、データ代表性使えた人だけで評価しない

職能団体と国際機関は何を求めているか

AIは、作業療法の教育・実践・政策の課題にもなっている。AOTAの公式文書一覧では、2025年のProfessional Policyとして「Ethical Use of Artificial Intelligence (AI)」が掲載されている。JozkowskiはAJOTで、AIを教育、臨床実践、クライアントの参加に関わる現象として扱い、AIリテラシーと倫理的利用を職能上の課題としている。

WFOTの声明一覧では、Telehealth、Assistive Technology、Rehabilitationなどの職能声明は確認できるが、AI専用の声明は一覧上確認できなかった。これは、AIが作業療法に無関係という意味ではない。むしろ、既存の遠隔支援、支援技術、人権、専門職自律の枠組みを、AI時代にどう更新するかが今後の課題である。

WHOの医療AIガイダンスは、人間の自律、透明性、説明可能性、公平性、責任、継続的評価を重視している。作業療法にAIを入れる場合も、この一般原則は無視できない。

ETIC 2.0で見ると、AIは「新しい専門職」ではなく環境要素である

ETIC 2.0では、AIを本人の代わりに判断する主役として置かない。AIは、本人、家族、専門職、環境、データ、制度の間に入る環境要素の一つとして扱う。

この見方を取ると、AI導入前に確認すべき問いは変わる。

  1. そのAIは、本人が望む作業参加を上位目標にしているか。
  2. 技術性能だけでなく、生活上の成果を測っているか。
  3. 専門職が独立して確認し、保留し、相談できるか。
  4. 家族や支援者へ新しい負担を移していないか。
  5. 使えない人、使わない人、途中で離脱した人を記録しているか。
  6. データの偏り、外部検証、説明可能性を確認しているか。
  7. 本人が説明を受け、拒否し、非AI経路へ切り替えられるか。

これらは、ETIC 2.0の有効性が実証済みだという意味ではない。むしろ、今後の実装研究で検証すべき項目である。

まだ言えないこと

この記事からは、次のことは言えない。

言えるのは、もっと地味なことである。AIは作業療法の周辺にすでに入り始めている。だが、現在の研究は、作業療法が大切にしてきた生活、意味、参加、公平性を十分に測り切れていない。

結論

作業療法でAIはどこまで使われているのか。

答えは、「もう使われ始めているが、作業療法の中心を十分に測る段階にはまだ届いていない」である。

AI研究は、運動、評価、予後、支援技術、遠隔支援、教育、相談へ広がっている。しかし、本人の意味ある作業参加、地域生活、家族・支援者の負担、公平性、説明責任まで含めて評価する研究は不足している。

だから、作業療法がAI時代に問うべきことは、AIを受け入れるか拒むかではない。

そのAIが、誰の、どの作業を、どのように支え、誰に負担を移し、誰を外に残すのか。そこまで見える評価と設計を作れるかである。

執筆: Unknown Lab 編集部(AI支援) / 確認: 作業療法士

参考文献

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