Case Studies

ケーススタディ — 4つの事例で見るETIC 2.0

ETIC 2.0の考え方が実際の場面でどう働くのかを、4つの事例で示します。いずれも特定の個人の事例ではなく、典型的な状況を組み合わせた架空の事例です。

ケース1 在宅高齢者の外出支援 — 「買い物を止めない」ための設計

本人は、近所のスーパーまで歩いて買い物に行くことを大切にしています。買い物は食材を手に入れるだけの行為ではありません。店員と挨拶をする、季節の野菜を見る、自分で献立を決める、家族に頼らず自分の生活を整えるという意味を持っています。

最近ふらつきが増え、家族は「転んだら大変だから、もう一人で外に出ないでほしい」と考えています。センサーは夜間トイレ回数の増加と歩行速度の低下を検出しています。本人は家族の心配を理解しながらも、「買い物まで止められると、自分が自分でなくなる」と感じています。

この場面で支援者が最初に思い出したいのは、「危ないから禁止」ではなく、「どうすれば意味ある外出を安全に続けられるか」という問いです。

支援
本人外出したい理由、買いたいもの、疲れやすい時間帯を確認する。
家族不安を聞き、見守り負担を調整する。
環境段差、照明、休憩場所、店までの道を確認する。
技術転倒検知ではなく、外出前の体調確認と帰宅確認に使う。
制度地域の移動支援、買い物支援、介護保険サービスを確認する。
評価転倒回数だけでなく、外出頻度、満足度、家族負担を測る。

家族には「外出を許すか止めるか」ではなく「何が分かれば安心できるか」を尋ね、本人には「どこまでなら自分で決めたいか」を確認します。目標は転倒リスクをゼロにすることではなく、本人の尊厳と参加を守りながら、許容できるリスクまで下げることです。

ケース1在宅高齢者の外出支援の図解
ケース1の図解。

ケース2 発達支援と学校参加 — AIツールを「特別扱い」にしない

児童は授業中の集中が難しく、板書を書き写す途中で内容を聞き逃すことが多い状況です。タブレット教材とAI要約ツールの利用が検討されています。学校は学習の効率化を期待し、保護者は「AIに頼りすぎて、自分で考える力が育たないのではないか」と心配しています。本人は、授業についていけないことよりも、友人の前で何度も注意されることをつらく感じています。

ETICでは、AIツールの導入可否だけを問いません。使う目的を分けます。聞き逃した内容を補う場面ではAI要約を使い、自分の考えを言葉にする場面では、本人の下書きを支える程度にとどめる。AIが本人の表現機会を奪わないように設計します。

また、AIツールを特別扱いとして導入すると、本人が周囲から見られる負担が増えることがあります。教室全体で使える教材設定、座席、板書の提示方法、休憩の取り方も同時に見直します。支援の成否は、テストの点だけでなく、本人が授業に参加できた感覚、友人関係、家庭での疲労、保護者と教員の連携で評価します。

ケース2発達支援と学校参加の図解
ケース2の図解。

ケース3 就労支援 — 「AIを本人の弱さの証拠にしない」

高次脳機能障害のある人が復職を希望しています。本人は以前のように働きたい気持ちが強い一方、予定の抜け、疲労、複数業務の切り替えに不安があります。AIによるスケジュール支援や文章作成支援が使えそうですが、職場は情報漏えいを心配しており、本人も「AIを使うと、自分の能力が足りないと思われるのではないか」と感じています。

ETICでは、AI利用を本人の能力不足の補填としてだけ扱わず、職場環境の再設計として扱います。復職支援では「できるか、できないか」を一度で判定せず、業務を朝の準備、会議、資料作成、電話対応、移動、休憩、報告に分け、どの場面で記憶補助が必要か、どの場面で疲労が増えるか、どの情報をAIに入力してはいけないかを整理します。

たとえば、AIには会議の個人情報を入力しない。代わりに、社内で許可されたツールで、本人が作成したメモの見出しを整える、予定の抜けを確認する、報告前のチェックリストを表示するなど、リスクの低い使い方から始めます。職場には、本人だけに努力を求めるのではなく、業務量、休憩、確認担当、締切の伝え方を調整してもらいます。現場で思い出したい合言葉は、「AIを本人の弱さの証拠にしない」です。

ケース3就労支援の図解
ケース3の図解。

ケース4 AIアプリの開発 — 機能一覧から始めない

作業療法支援アプリの開発でよくある失敗は、機能一覧から始めてしまうことです。「記録ができる」「AIが助言する」「グラフが出る」といった機能は重要ですが、それだけではケアの質は決まりません。ETICでは、まず誰のどの作業参加を支えるのかを決め、次にAIが担う役割、人間が担う役割、データの流れ、責任、代替手段、評価指標を設計します。

設計項目確認事項
対象誰のどの作業参加を支えるのか。
AIの役割助言、要約、記録、検索、予測のどれか。
人間の役割誰が確認し、誰が説明するのか。
データ何を入力し、どこに保存し、誰が見られるのか。
安全性誤情報が出たときどう止めるのか。
公平性スマートフォンやAIを使えない人への代替手段はあるか。
評価作業参加、満足度、安全性、負担をどう見るか。

開発初期には、画面を作る前に一日の生活の流れを紙に描きます。誤った助言が出たときの停止ボタン、問い合わせ先、紙や電話での代替手段も、最初から設計に入れます。評価ではアプリの利用回数だけを見ず、本人の作業参加が広がったか、家族の負担が減ったか、専門職の判断がしやすくなったかを確認します。ここまで設計して初めて、AIアプリは「便利な機能」から「ケア生態系を支える道具」になります。

ケース4 AIアプリ開発の図解
ケース4の図解。

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