Model

ETIC 2.0とは何か — AI時代の作業療法とケア生態系設計

ETIC 2.0(エコテクノロジカル・インテグラティブ・ケア / Eco-Technological Integrative Care)の全体像を、この1ページで解説します。

AIは本人や専門職の代わりに判断する主役ではありません。ETIC 2.0では、AIをケア生態系の一部として位置づけ、誰が確認し、誰が説明し、どのように止められるのかを含めて設計します。

やさしい説明

ETICは、ケアを「本人への支援」だけでなく、「本人を支える環境全体の設計」として考えるモデルです。

ここでいう環境には、家族、専門職、地域、制度、住まい、福祉用具だけでなく、スマートフォン、センサー、AI、データ基盤も含まれます。本人の身体機能だけを見ても、生活は支えきれません。本人が何を大切にし、どんな作業(本人にとって意味・目的・価値を持つ生活行為。用語集参照)に参加したいのかを中心に置きながら、その周囲の条件を整える必要があります。

ETIC 2.0の全体像を示す図。AI普及前のケアとAI時代のケアを対比し、本人の意味ある作業と参加を中心に据える考え方を示す
図1 ETIC 2.0の全体像。AIを主役にせず、本人の作業参加を支える環境要素として扱う。

要点整理 — 7つの問いと答え

問いETIC 2.0の答え
ETICとは何か本人・家族・専門職・AI・デバイス・環境・地域・制度を一つのケア生態系として捉え、意味ある作業と参加を支える条件を設計するモデルである。
何が新しいのかAIを単なる便利な道具ではなく、生活とケアの環境を変える要素として扱う点である。
何を中心に置くのかAIでも効率化でもなく、本人にとって意味ある作業、参加、尊厳を中心に置く。
なぜ今必要か生成AI、医療AI、遠隔支援、生活データが普及し、ケアの責任、説明、同意、公平性が複雑になったからである。
誰のための文書か作業療法士、医療・福祉職、AI開発者、研究者、行政、教育関係者、本人・家族、一般読者である。
どう使うのかケア生態系マップ、設計原理、参照アーキテクチャ、設計パターン集、設計レビュー・ルーブリックを使って、ケアやアプリや制度を点検する。
何ではないのかAI礼賛ではない。評価尺度だけでもない。既存の作業療法モデルを置き換えるものでもない。

ETICを使うときの3つの問い

ETICを使うときは、まず次の3つを確認します。

  1. その支援は、本人のどの作業参加を支えるのか。
  2. AIやデータが関わる場合、誰が確認し、誰が説明し、誰が止められるのか。
  3. その支援によって、本人、家族、専門職、地域の生活は本当に広がるのか。

この3つの問いに答えられない技術導入は、便利に見えてもケアとしては不十分です。逆に、3つの問いに答えられるなら、AIは人間の判断を奪うものではなく、本人の参加を広げる環境の一部として設計できます。

ケア生態系の構成要素と、ETICを使うときの3つの問いを示す図
図2 ケア生態系と3つの問い。

8つの設計原理

ETICは評価尺度ではなく、まずケアを設計するための思想であり、実践の見取り図です。中心にあるのは、「どのようなケアを作るべきか」を考えるための8つの設計原理です。

設計原理意味確認する問い
作業参加中心ゴールはAI導入ではなく、本人が望み、必要とし、期待される作業への参加である。本人は何に参加したいのか。
ケア生態系設計個人だけでなく、環境、家族、制度、技術を含めて設計する。参加を妨げている条件はどこにあるか。
AIの文脈化AIを外部の万能道具ではなく、ケア生態系の一要素として扱う。AIは誰を、何を、どう支えるのか。
人間責任の保持AIの出力は提案であり、最終判断と説明責任は人間が持つ。誰が確認し、誰が説明するのか。
共同作業の可視化本人だけで完結しない作業を、家族や支援者との共同作業として扱う。家族や介護者の負担は見えているか。
データ統治生活データ、医療データ、AI出力の流れを明示する。誰が何を見て、どこに保存されるのか。
公平性の事前組込みデジタル格差やバイアスを、導入後ではなく設計段階で検討する。使えない人への代替手段はあるか。
長期・分散ケア一回の介入ではなく、生活の中の継続支援と再設計を前提にする。支援は生活の変化に合わせて更新されるか。

ETIC 2.0では「人間中心」という表現も慎重に扱います。人間だけを見ていても、AI、データ、制度、家族の負担、地域資源といった生活を左右する条件は見えないからです。一方で、AI中心になってもいけません。ETICが中心に置くのは、本人の作業参加です。人間、AI、デバイス、制度は、その作業参加を支えるために設計されます。

参照アーキテクチャ — ケア生態系を層で見る

ETICを実装に近づけるには、ケア生態系を層に分けて見ると考えやすくなります。どの問題が本人の心身に関わるのか、どの問題が環境や制度に関わるのか、どの問題がAIやデータに関わるのかが見えやすくなります。

ETIC参照アーキテクチャの図。作業参加の中核を中心に、人の層、環境層、デバイス層、データ層、AI層、ケア調整層、統治層が循環する構造
図3 ETIC参照アーキテクチャ。技術の積み上げではなく、本人の作業参加を支える循環として読む。
主な役割確認する問い
作業参加の中核本人にとって意味ある作業、参加、尊厳、健康、幸福を中心に置く。この支援は、本人のどの作業参加を支えるのか。
人の層本人、家族、専門職、支援者の願い、判断、負担を扱う。誰が関わり、誰が困り、誰が支えるのか。
環境層住まい、学校、職場、地域、交通、制度を扱う。参加を妨げている条件は、本人ではなく環境側にないか。
デバイス層センサー、スマートフォン、福祉用具、スマートホームを扱う。そのデバイスは生活を広げるのか、負担を増やすのか。
データ層電子カルテ、生活データ、センサーデータ、本人生成データを扱う。どのデータを集め、誰が見て、どこに保存するのか。
AI層予測、要約、推薦、記録支援、異常検知を扱う。AIは何を補助し、どこから先は人間が担うのか。
ケア調整層専門職連携、家族連携、地域資源、ケア計画を扱う。情報、判断、責任はどう共有されるのか。
統治層倫理、同意、プライバシー、責任、監査、公平性を扱う。本人の権利と尊厳は、設計段階から守られているか。

このアーキテクチャは、システム開発だけのためのものではありません。臨床の事例検討、地域プロジェクト、アプリ開発、教育、研究計画、政策提案にも使えます。重要なのは、どの層に問題があるかを探すだけでなく、各層の関係が本人の作業参加に戻っているかを確認することです。

既存の作業療法モデルとの関係

ETICは、既存の作業療法モデルを置き換えるものではありません。人間作業モデル(MOHO)、PEOモデル、ICF、作業的公正などは、今後も重要な基盤です。ETICは、それらの蓄積を、AI、データ、デバイス、制度を含むケア生態系の設計へ接続する統合提案です。背景となる作業療法の歴史的展開は、なぜAI時代に新しいケアモデルが必要なのかとPDF本文の第4章・付録1で解説しています。

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さらに詳しくは、全文PDFで読めます。歴史的背景、設計レビュー・ルーブリック、ケアテクノロジスト論、参考文献一覧を収録しています。