Research Report 06

MOHO・PEO・ICFがあるのに、ETIC 2.0は何を足すのか

作業・環境・参加の蓄積と、AI・データ・統治をつなぐ設計レンズ

著者
Daiki Morimoto(Unknown Lab)
公開日
2026年8月17日
文書
Version 1.0・未査読
ライセンス
CC BY 4.0
ORCID
0009-0009-6444-750X
近所の店へ歩く高齢者の生活模型の上に、作業理解、適合、共通記述、AIとデータの統治を示す透明な分析層が重なる
既存の作業理論と生活機能の分類を土台に、AI導入のデータ、責任、停止・代替条件を点検する。

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MOHO、PEO、ICFがあるのに、なぜETIC 2.0が必要なのか。

調べた結果、ETIC 2.0は「人、作業、環境を初めて結びつけた新しい理論」とは言えない。MOHOは、人の意志、習慣、遂行能力と環境から作業を説明してきた。PEOは、人・環境・作業の動的な適合から作業遂行を捉えてきた。ICFは、活動・参加、製品・技術、支援、制度を共通言語で記述してきた。

ETIC 2.0が追加しようとしているのは、技術そのものではない。候補となる役割は、意味ある作業参加を上位目標に置いたまま、AIが使うデータ、判断の確認者、説明、異議申立て、非AIの代替経路、停止条件、導入後監視までを一つの設計レビューへつなぐことである。

ただし、これは現時点ではUnknown Labの比較推論と未検証仮説である。ETIC 2.0が既存モデルとAIガバナンス資料を別々に使う方法より優れているという比較証拠はない。

新しい枠組みを作る前に、重複を調べる

新しい技術が現れると、新しい枠組みが必要だと言いたくなる。

しかし、名前を増やすことと、現場の見落としを減らすことは同じではない。既存理論がすでに問えることを別の言葉で言い換えただけなら、学ぶ側の負担を増やす。反対に、既存理論の目的とは異なる実務課題が生じているなら、その境界を明示する必要がある。

ETIC 2.0は、AI、デバイス、データを含むケア生態系を、本人の意味ある作業参加と尊厳から設計するための提案である。けれども、作業療法にはすでに、人と作業と環境を扱う長い蓄積がある。国際生活機能分類(ICF)も、活動・参加と環境因子を世界的な共通言語にしている。

そこで本稿では、ETIC 2.0を擁護するためではなく、どこまでが継承で、どこからが追加候補なのかを確かめる。

方法

2026年8月16日までに確認できたMOHOとPEOの原著・公式資料、WHOのICF原典、日本作業療法士協会の定義、作業療法からICFの参加概念を検討した査読論文を優先した。AI・データ統治については、WHO、NIST、厚生労働省の公的資料と、作業療法・ケア生態系とAIの接続を論じた査読論文を用いた。

比較軸は、目的、中心概念、分析単位、人、作業・活動・参加、環境、時間、技術、統治、実務上の成果物の10項目とした。

本稿は対象限定の概念比較である。検索結果の全件スクリーニング、正式な質評価、モデルごとの臨床効果比較は行っていない。MOHOの現行第6版を含む各理論の全著作を網羅したものでもない。

まず、同じ種類のものとして比べない

MOHO、PEO、ICF、ETIC 2.0は、すべて人と環境に関係する。しかし、同じ目的で作られたものではない。

短く言えば、次のように役割を分けられる。

枠組み主に答えようとする問い実務で得たいもの
MOHO作業はなぜ動機づけられ、習慣化され、遂行されるのか作業生活の理解、評価、介入の方針
PEOこの人・環境・作業の関係は、どこで適合し、どこでずれるか適合を高める変更案
ICF生活機能、活動・参加、環境因子をどう共通言語で記述するかカテゴリー、共通記述、統計
ETIC 2.0AIを含むケアの関係、データ、責任、運用条件をどう設計・点検するか生態系図、データフロー、責任表、停止・代替条件

この表は優劣表ではない。理論、実践モデル、分類、設計提案を、同じ物差しで順位づけないための整理である。

MOHOは、作業がどのように形づくられるかを説明する

KielhofnerとBurkeは1980年、開放系理論を基礎に、人間の作業を理解し、作業療法の実践と研究へ用いる概念モデルを提示した[1]

University of Illinois Chicagoの現行公式解説では、MOHOは、作業がどのように動機づけられ、パターン化され、遂行されるかを説明する理論とされている。人は、何を大切にし何をできると思うかに関わる意志、役割や習慣に関わる習慣化、心身の能力とその主観的経験に関わる遂行能力から捉えられる。物理的・社会的環境も、作業を可能にも困難にもする重要な文脈である[2]

たとえば、転倒リスクを予測するAIが「外出を減らすべき」と示したとする。

MOHOの視点では、転倒確率だけで終わらない。本人にとって外出は何を意味するのか。長年続けてきた買い物や友人との約束は、どの役割と習慣を支えているのか。身体能力だけでなく「自分ならできる」という感覚はどう変わったか。家族や専門職の反応が、本人の意志と行動をどう形づくるかを問える。

これはAI時代にも必要な問いである。ETIC 2.0が「作業の意味」を発見したわけではない。

一方、今回確認したMOHOの初期原著と公式解説は、AI出力の責任者、学習データの利用目的、モデル更新時の再評価、異議申立て、停止基準を運用手順として示す資料ではなかった。これはMOHOの欠陥ではなく、理論の主目的が異なることを示す。

PEOは、人・環境・作業の「適合」を動かして考える

LawらのPEOモデルは、作業遂行を、人、環境、作業の動的な相互作用から捉える[3]

人には、能力だけでなく、役割、自己概念、価値、経験がある。環境には、物理的環境だけでなく、文化、社会経済、制度、社会関係が含まれる。作業も固定された課題ではない。人・環境・作業の適合は、日、週、生活段階、生涯という時間の中で変化する。

転倒リスクAIの例なら、本人を訓練することだけが介入ではない。外出時刻を変える、段差を改修する、交通手段を選び直す、買い物の方法を調整する、家族の支援時間を見直す、事業所のルールを変える。人、環境、作業のどこを変えると、外出という作業遂行の適合が高まるかを検討できる。

PEOは古いから技術を扱えない、という説明も正しくない。Vrkljanは2010年、車載ナビゲーションを高齢夫婦が共同で使う事例へPEOを適用している[4]。技術は、人・環境・作業の関係の中ですでに分析できる。

したがって、ETIC 2.0の追加価値を「PEOには技術がない」と説明することはできない。候補となる差は、AIを単なる道具や環境条件として見るだけでなく、データを集め、確率を出し、人の判断と組織の責任配分を変える運用主体として、設計レビューの項目を明示する点にある。

ICFは、生活機能を共有するための言語である

WHOのICFは、健康と健康関連領域を記述する国際分類である。分類単位は人そのものではなく、心身機能・身体構造、活動・参加、環境因子などのカテゴリーである[5]

ここで重要なのは、ICFを治療理論と取り違えないことである。WHO原典は、ICF自体は生活機能や障害の「過程」をモデル化するものではなく、そのようなモデルを作るための構成要素や共通言語を提供すると説明している。

ICFは技術も扱う。環境因子の第1章は「製品と技術」であり、支援技術を含む。支援と関係、態度、サービス・制度も環境因子に入る。転倒リスクAIを使う状況なら、移動、地域生活、対人関係、製品・技術、家族支援、交通や保健サービスを共通の形式で記述できる。

同時に、ICFの「参加」と作業療法のoccupationは同義ではない。活動と参加は同じ領域リストを共有し、利用者が操作的に区別する。HemmingssonとJonssonは、ICFの参加概念では、本人にとっての意味や自律が十分に捉えられない場合があると指摘した[6]。Larsson-LundとNymanも、ICFの参加と作業療法モデルのoccupationを接続することは有用になり得る一方、違いを曖昧にすれば作業療法固有の焦点を弱めると論じた[7]

日本作業療法士協会は、作業を「対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為」と定義している[8]。ICFで同じ参加カテゴリーに記述される二人でも、その行為の意味、望み、自律、役割は異なり得る。分類と作業的理解は、置き換えるのではなく組み合わせる必要がある。

技術を環境に入れるだけでは、ETIC 2.0の独自性にならない

ここまでで、一つの結論が出る。

技術、制度、時間、参加を視野に入れること自体は、ETIC 2.0の新規性ではない。

MOHOは物理・社会環境を扱う。PEOは文化、社会経済、制度、物理、社会環境と時間を扱い、技術利用にも適用されている。ICFは製品・技術、支援、態度、サービス・制度を環境因子として分類する。

また、作業療法と人間中心AIの接続もETIC 2.0だけの発想ではない。Kaelinらは、作業遂行と参加、作業的公正、多様性、透明性、参加データのプライバシーを、人間中心AIと作業療法の接点として論じている[13]。Jozkowskiも、AIを教育、実践、クライアント参加、政策に関わる職能課題として扱っている[14]

ETIC 2.0を正当化するために既存モデルを狭く描けば、比較そのものが不公正になる。

AIが増やすのは、性能だけでなく「統治の仕事」である

では、AIが入ると何が変わるのか。

通常の道具も使い方を誤れば危険である。ただしAIは、過去データから規則を学び、確率や文章を出力し、更新され、異なる環境へ移される。入力データの偏り、用途外利用、性能劣化、誤警報、見逃しが、本人、家族、専門職、事業者の判断へ連鎖する。

そのため、AI導入では「環境に技術がある」と記述するだけでなく、少なくとも次を決める必要がある。

  1. 何の生活目標を支えるために使うのか。
  2. どのデータを、誰が、何の目的で集めるのか。
  3. AI出力を誰が確認し、採用、保留、上書きできるのか。
  4. 本人へ何を説明し、拒否や異議申立てをどう保障するのか。
  5. AIを使わない同等の経路をどう残すのか。
  6. どの条件で停止、変更、廃止するのか。
  7. 導入後に、精度だけでなく生活、負担、公平性をどう監視するのか。

WHOの医療AIガイダンスは、人間の自律、安全と公共利益、透明性、責任、公平性、応答性と持続可能性を6原則に掲げ、実利用中の継続評価を求める[9]

NIST AI Risk Management Framework 1.0は、Govern、Map、Measure、Manageの4機能でリスク管理を整理する。役割と責任、人間監督、問題報告と異議申立て、非AI代替、意図した用途と一致しないAIの停止、導入後監視、上書き、廃止、事故対応までを明示する[10]

日本の厚生労働省のガイドラインも、医療デジタルデータをAI研究開発等へ利用する際の利用目的、同意、第三者提供、共同利用、安全管理、利用不要後の消去を具体化している[11]

これらはMOHO、PEO、ICFより後に作られ、目的も異なる。既存モデルの失敗を証明する資料ではない。AIを現実に運用するなら、作業理解や生活機能の記述に加え、統治の仕事が必要だと示す資料である。

一つの事例を、四つのレンズで見る

架空の合成事例で考える。

78歳のAさんは、一人で近所の商店へ行き、店員や知人と話すことを大切にしている。最近ふらつきがあり、家族は心配している。事業所は、歩行センサーと生活記録から7日以内の転倒リスクを出すAIを導入した。AIが高リスクと判定すると、家族と担当者へ通知される。

ある週、AIは高リスクを表示した。家族は外出を控えるよう勧めた。担当者は安全を優先したいが、予測の根拠と誤警報率を十分説明できない。Aさんは「転ぶかもしれないのは分かる。でも、買い物までやめたくない」と話した。

MOHOで見えること

PEOで見えること

ICFで見えること

ETIC 2.0が追加しようとする点検

この最後の項目群は、MOHO、PEO、ICFでは絶対に問えないという意味ではない。専門職や組織が既存枠組みにNISTやWHOのガバナンスを組み合わせれば、同様の問いを作れる。

ETIC 2.0の仮説は、それらを一つの設計レビューとしてつなぎ、作業参加を最後まで上位目標に保ちやすくする、というものである。

ETIC 2.0が受け継ぐもの、追加しようとするもの

受け継ぐもの

明示的に追加しようとするもの

まだ証明されていないこと

Hwangらは、AIを関係の外にある道具ではなく、時間とともに役割や配置を変える動的ケア生態系の一部として捉える予備的モデルを提示している[12]。これはETIC 2.0の関心に近い直接の先行研究であり、ETIC 2.0だけがAIとケア生態系を結びつけたわけではない。

ETIC 2.0は「置き換え」ではなく「上乗せレンズ」として検証する

現時点で妥当なのは、次のような使い分けである。

  1. MOHOまたはPEOで、本人の作業と環境の関係を理解する。
  2. 必要に応じてICFで、生活機能、活動・参加、環境因子を共有する。
  3. WHO、NIST、国内法・公的指針で、AI・データ統治の要件を確認する。
  4. ETIC 2.0を、これらの間を行き来する設計・点検レンズとして試す。

ETIC 2.0が価値を持つかどうかは、名前ではなく比較で確かめるべきである。

たとえば同じ事例を、PEOとNISTの組み合わせ、MOHOとWHOガイダンスの組み合わせ、ICFと組織内AI規程の組み合わせ、ETIC 2.0で別々にレビューする。見つかった課題数だけでなく、本人にとって重要な問題を捉えたか、重複は多くないか、所要時間はどうか、誰が理解できたか、行動可能な責任分担を作れたかを比較する。

そこで差が出なければ、ETIC 2.0を独立して使う理由は弱い。差が出ても、別の現場や利用者で再現するかを確かめる必要がある。

まだ言えないこと

この記事からは、次のことは言えない。

作業的公正、Kawa、CMOP-E、PEOP、HAATなどとの比較は残っている。MOHOの現行版と各評価法、PEOの後続研究も十分に網羅していない。これは今後の論文化とResearch Report 08で補うべき課題である。

結論

MOHO・PEO・ICFがあるのに、ETIC 2.0は何を足すのか。

現時点の答えは、「新しい作業理論」ではない。

MOHOは、作業がどのように動機づけられ、習慣化され、遂行されるかを理解する。PEOは、人・環境・作業の適合を時間の中で調整する。ICFは、生活機能、活動・参加、環境因子を共通言語で記述する。どれもAI時代にも必要である。

ETIC 2.0が追加しようとしているのは、その蓄積を、データ、AI、人間監督、責任、異議申立て、非AI経路、停止、導入後監視という統治の仕事へ接続する設計レンズである。

ただし、まだ提案である。ETIC 2.0の価値は、既存理論を小さく見せることではなく、既存理論と公的ガバナンスを組み合わせた方法との比較に耐えられるかで決まる。

執筆: Unknown Lab 編集部(AI支援) / 確認: 作業療法士

参考文献

  1. Kielhofner G, Burke JP. A model of human occupation, part 1. Conceptual framework and content. Am J Occup Ther. 1980;34(9):572-581. https://doi.org/10.5014/ajot.34.9.572
  2. University of Illinois Chicago. Introduction to MOHO. MOHO-IRM Web. Accessed 2026-08-16. https://moho-irm.uic.edu/resources/about.aspx
  3. Law M, Cooper B, Strong S, Stewart D, Rigby P, Letts L. The Person-Environment-Occupation Model: A Transactive Approach to Occupational Performance. Can J Occup Ther. 1996;63(1):9-23. https://doi.org/10.1177/000841749606300103
  4. Vrkljan B. Facilitating Technology Use in Older Adulthood: The Person-Environment-Occupation Model Revisited. Br J Occup Ther. 2010;73(9):396-404. https://doi.org/10.4276/030802210X12839367526011
  5. World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF. WHO; 2001. ISBN 92-4-154542-9. https://iris.who.int/handle/10665/42407
  6. Hemmingsson H, Jonsson H. An occupational perspective on the concept of participation in the ICF: some critical remarks. Am J Occup Ther. 2005;59(5):569-576. https://doi.org/10.5014/ajot.59.5.569
  7. Larsson-Lund M, Nyman A. Participation and occupation in occupational therapy models of practice. Scand J Occup Ther. 2017;24(6):393-397. https://doi.org/10.1080/11038128.2016.1267257
  8. 日本作業療法士協会. 作業療法の定義. 2018(2025年WFOT定義追記). https://www.jaot.or.jp/about/definition/
  9. World Health Organization. Ethics and governance of artificial intelligence for health. WHO; 2021. https://www.who.int/publications/i/item/9789240029200
  10. Tabassi E. Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0). NIST AI 100-1; 2023. https://doi.org/10.6028/NIST.AI.100-1
  11. 厚生労働省. 医療デジタルデータのAI研究開発等への利活用に係るガイドライン. 2024. https://www.mhlw.go.jp/content/001310044.pdf
  12. Hwang AS, Tannou T, Chan J, et al. Co-creating Humanistic AI AgeTech to Support Dynamic Care Ecosystems: A Preliminary Guiding Model. Gerontologist. 2025;65(1):gnae093. https://doi.org/10.1093/geront/gnae093
  13. Kaelin VC, Nilsson I, Lindgren H. Occupational therapy in the space of artificial intelligence: Ethical considerations and human-centered efforts. Scand J Occup Ther. 2024;31(1):2421355. https://doi.org/10.1080/11038128.2024.2421355
  14. Jozkowski AC. Artificial Intelligence and Occupational Therapy: From Emerging Occupation to Educational, Practice, and Policy Imperative. Am J Occup Ther. 2025;79(6):7906347100. https://doi.org/10.5014/ajot.2025.051283