論文とETIC

支援を足すと、デジタルケアからこぼれた人は戻れるのか

Walklinら(2026)のデジタル包摂介入を、ETIC 2.0のケア生態系から読む

著者
Daiki Morimoto(Unknown Lab)
公開日
2026年8月6日
文書
Version 1.1・未査読
ライセンス
CC BY 4.0
ORCID
0009-0009-6444-750X
タブレット、通信、対面訓練、継続支援、本人の生活目標が支援付きデジタルケアの経路としてつながる
デジタルケアの入口は、端末だけでなく設定、訓練、継続支援、代替経路で構成される。

Walklinら(2026)の混合研究法パイロットRCTを読む

論文とETIC #3
Version 1.1公開版 / 2026年8月6日

アプリを案内した。登録方法も伝えた。それでも、使い始められない人がいる。

このとき「本人のデジタルリテラシーが低い」と説明すれば、問題は本人の側に置かれる。しかし実際の入口には、端末の価格、通信、初期設定、パスワード、文字の大きさ、手の動かしにくさ、記憶、詐欺への不安、困ったときに聞ける相手など、いくつもの条件が重なっている。本人に技能を求める前に、使える条件を支援側がどこまで整えたかを問う必要がある。

今回読むWalklinらの論文は、慢性腎臓病(CKD)の人向けデジタル運動・情緒的ウェルビーイング介入「Kidney Beam」へ、デジタルに排除された人が入れるようにする支援を試した研究である。Wi-Fi対応iPadの貸与、初期設定、1対1の対面訓練、必要時の支援を組み合わせたEx-Tab群と、Kidney Beamへの登録・利用案内のみを受けた群を比較した[1]

重要なのは、これはデジタル介入の臨床効果を確定する試験ではないことだ。40人の単施設パイロットRCTであり、主な目的は、デジタル包摂支援を実施できるか、受け入れられるか、次の確証試験へ進めるかを調べることだった。本稿では、研究から直接観察されたこと、著者の結論、まだ言えない因果効果、Unknown Labの論評を分けて読む。

30秒で分かる研究の要点

項目内容
研究英国ロンドンの1施設で行った混合研究法パイロットRCT
対象デジタル機器へのアクセスがない、またはDHLSが7点未満のCKD患者40人
期間2023年9月から2024年9月に募集、12週間介入。データ収集は2024年11月まで
比較iPad貸与・設定・1対1訓練・必要時支援を含むEx-Tab群21人 対 登録案内のみ19人
利用12回以上の運動セッション利用は8/21人 対 0/19人。対照群で1回以上利用したのは2人
追跡35/40人、88%が12週追跡を完了
質的調査25人へ面接。端末・費用、使いやすさ、技能、信頼、支援体制の5領域を分析
読み方支援付き経路の実行可能性を支持するが、健康改善や格差縮小の因果効果は未確定

補強記事04から、何を一歩深めるのか

直前のResearch Report 04「便利なケアからこぼれる人を、どう設計に戻すか」では、デジタル排除を三つの段階に分けた。

  1. 端末、通信、費用などのアクセス
  2. 操作、理解、信頼、支援などの利用する力
  3. 利用が健康、生活、参加の改善へ変わる意味のある成果

Xueらのスコーピングレビューは、デジタル排除がこの複数段階で起こり、個人の特徴だけでなく、技術、医療組織、社会条件が関わると整理した[4]。一方、多くの研究は観察研究や質的研究で、排除された人へ具体的な支援を加えたとき、実際に介入へ戻れるかを比較する証拠は限られていた。デジタル訓練を含む介入のレビューでも、訓練そのものの記載や独立評価は不十分だった[5]

Walklinらの増分は、デジタルに排除された人を「オンライン研究へ参加できない人」として外すのではなく、端末と訓練を研究介入の一部へ入れた点にある。デジタル介入を評価するとき、アクセスできる人だけを集めれば、介入の効果は測れても、誰が最初から評価対象に入れなかったかは見えなくなる。本研究は、その入口の偏り自体を研究対象にした。

ただし、「排除された人を戻した」という表現にも注意が必要である。研究が用意したのは、Kidney Beamという一つのデジタル介入へ入る支援であり、対面、電話、紙などの非デジタル経路と同じ成果へ到達できるかを比較したわけではない。デジタル製品への包摂と、必要なケアへの包摂は同じではない。

誰を、どのように調べたのか

研究は、英国ロンドンのKing’s College Hospitalで行われた。18歳以上のCKD患者のうち、Wi-Fi対応デジタル機器へアクセスできない人、またはDigital Health Care Literacy Scale(DHLS)が7点未満の人を対象にした。DHLSは0点から21点で、高いほどデジタルヘルスリテラシーが高い。主試験の参加者はこの副試験には含まれていない[1]

2023年9月から2024年9月に169人をスクリーニングし、129人は登録されず、40人を無作為化した。募集は1か月平均3人で、目標の40人へ達した時点で終了した。登録者の中央値年齢は66.5歳、男性20人、女性20人、DHLS中央値は4点だった。19/40人、48%が黒人参加者であり、ロンドン南部の多様な都市人口を反映する一方、英国全体のCKD人口とは構成が異なる[1]

Ex-Tab群は21人、Kidney Beam単独群は19人だった。介入の性質上、参加者と支援を行う医療者は割付を知らない状態にはできなかった。Ex-Tab群は対照群より年齢が高く、女性が多かった。腎代替療法の構成にも差があった。小規模試験では無作為化してもこのような不均衡が残るため、群間差をそのまま介入効果とみなせない。

この対象設定には二つの意味がある。第一に、端末アクセスか尺度得点を用いて、デジタル排除を明示的に選定した点は強みである。第二に、病院の研究へ同意し、対面評価へ参加できた人が対象であるため、最も孤立している人、言語支援が必要な人、研究参加そのものが難しい人まで含めたとは言えない。

Ex-Tabは「iPadを渡すだけ」の介入ではない

対照群はKidney Beamのウェブサイトへ登録され、運動クラスへ入るユーザーガイドを受け、12週間にわたり週2回運動するよう案内された。

Ex-Tab群は、それに加えて12週間iPadを借りた。端末にはKidney Beamが事前設定され、研究担当の理学療法士がNHS施設で1対1の訓練を行った。訓練は最長60分で、電源、スワイプ、タップ、充電といった基本操作から、座位・立位の運動や教育コンテンツを見つける手順までを扱った。担当者による実演、参加者との共同操作、フィードバック、参加者だけでの練習という順序を取り、自立して操作できることを確かめてから持ち帰った[1]

支援要素研究で行ったこと設計上の意味
アカウントKidney Beamのアカウントを作成登録作業を本人だけへ残さない
端末Wi-Fi対応iPadを12週間貸与購入費用と所有の壁を下げる
初期設定Kidney Beamへすぐ入れる状態に設定パスワードや画面遷移の負担を減らす
対面訓練最長60分、実演から自立操作まで練習説明ではなく実際の作業として学ぶ
継続支援自宅で困ったとき研究チームへ連絡でき、希望時は対面支援も利用可能失敗後に戻れる経路を残す
利用制限端末管理でKidney Beam以外のアプリやサイトを制限操作を単純化する一方、一般的なデジタル自立とは異なる

この複合性が研究の中核であり、同時に限界でもある。iPad、通信、事前設定、対面訓練、支援窓口がまとめて提供されたため、どの要素が必要で、どの要素が効果を生んだかは分けられない。また、訓練は一定の手順で行われ、個別化できなかった。訓練が計画どおり一貫して行われたかを示す正式な忠実度評価もなかった。

何を「成功」と決めたのか

これは有効性を確定する試験ではなく、次の試験へ進めるかを判断するパイロット試験である。正式な検出力計算は行わず、40人という目標は募集、受容性、手続き上の問題を調べるために設定された。統計解析は独立した統計家が担当し、記述統計を用いた。副次的な健康指標は探索的であり、P値は報告されていない[1]

研究者は、募集、介入利用、質問票の完了、追跡脱落について、事前に「Stop / Amber / Go」の進行基準を決めた。

項目StopAmberGo
1か月当たり募集2人未満2-3人3人超
運動セッション利用6回未満6-11回12回以上
アウトカム完了率60%未満61-79%80%以上
脱落率50%超21-49%20%未満

ここで「12回以上」は健康改善が確認された閾値ではなく、週2回を12週間という計画に対する介入受容性の進行基準である。12回に届かなかった人を臨床的失敗と呼ぶこともできない。症状や体力に応じて短い座位プログラムを選んだ人もおり、利用回数や時間だけでは、その人に適切な参加量だったかを判断できない。

質的部分では、両群27人へ声をかけ、25人が半構造化面接へ参加した。面接参加者の中央値年齢は67.92歳、13人がEx-Tab群、12人が対照群だった。研究者は量的データと質的データを別々に分析した後、共同表示表で統合する収斂型混合研究法を用いた。質的分析は、NHSのデジタル包摂枠組みに沿う5領域で整理された[1]

利用結果は大きく違ったが、何の差なのか

12週追跡を完了したのは35/40人、88%だった。Ex-Tab群で3人、対照群で2人が追跡から外れた。理由は、医学的に参加困難となった4人と、追跡不能1人だった。

運動セッション利用は次のとおりである。

12週間の利用回数Ex-Tab群(n=21)案内のみ群(n=19)読み方
12回以上8人(38%)0人(0%)事前のGo基準
6-11回4人(19%)0人(0%)Amber基準
6回未満9人(43%)19人(100%)支援付きでも低利用者は残る
1回以上利用論文は総数を上表で提示2人案内だけでは開始が難しかった

Ex-Tab群の運動セッション数は中央値9回(IQR 2-18)だった。運動クラスに費やした時間は、論文表ではEx-Tab群の12週時点中央値135.0分、対照群0分と記載された。量的には、支援パッケージを受けた群でKidney Beamへの接触が増えたことが観察された[1]

一方、Ex-Tab群でも9/21人は6回未満だった。端末と訓練を用意すれば全員が継続できるわけではない。研究対象者は主試験より高齢で、糖尿病や高血圧などの併存疾患も多く、移動能力やバランスに応じて短い座位運動を選ぶ人もいた。利用が少ない理由を、再び本人の意欲不足へ戻してはいけない。

研究では、質問票や身体機能の副次的指標も測定した。精神的QOL、身体的QOL、60秒立ち上がり、心理的苦痛、疲労には群ごとの変化が記載されている。しかし、検出力計算はなく、欠測があり、群間の基準値も均衡しておらず、P値や信頼区間による有効性検定は行われていない。したがって、見かけ上の改善方向があっても、Ex-Tabが健康や身体機能を改善したとは結論できない。

安全性では3件の重篤有害事象が報告されたが、研究チームはいずれも介入または研究手続きとの関連なしと判断した。Ex-Tab群の2人の死亡者はKidney Beamの運動クラスを一度も実施していなかった。これは省略すべき情報ではないが、介入による死亡増加を示す結果でもない。

面接が示したのは「技能不足」より広い問題だった

25人の面接結果は、同じ「使えない」でも原因が異なることを示した。

領域参加者が語った障壁介入から得られた示唆
端末とデータ購入・修理費、通信不調、Wi-Fiやデータの理解、家族端末への依存貸与と通信をアクセス支援へ含める
アクセシビリティ小さい画面、ページ移動、パスワード、視覚障害、関節痛、手指操作ログイン負担、表示、操作方法を先に調整する
技能と能力入力、基本操作、手順の記憶、注意・認知の負担実演、共同操作、反復練習が必要
信念と信頼詐欺・ハッキングへの不安、対面を好む、技術の必要性を感じない利益だけでなく安全、選択、本人にとっての意味を説明する
リーダーシップと連携家族へ頼れない、継続的な声かけがない、相談先が不明医療機関、透析施設、図書館、地域支援をつなぐ

この質的結果は、端末を持っているかどうかだけではデジタル包摂を測れないことを補強する。Wi-Fiがあっても接続方法が分からない。家族が端末を持っていても、常に頼れるわけではない。大きなiPadでも運動中は画面が見づらい。操作を覚えても、詐欺への不安が残れば使わない選択は合理的になりうる。

訓練を受けた参加者は、段階的な説明、実際に触ること、繰り返し、支援者からの励ましを評価していた。一方、研究終了後も支援が続けば使いたいという声があり、短期試験で成立した利用が通常サービスへ移った後も続くかは分からない。研究者が設定し、教え、困りごとへ応じる体制そのものが介入である。端末だけを残して人の支援を削れば、同じ結果は期待できない。

費用と責任も介入の一部である

研究では、iPadを10台、1台525ポンドで購入し、SIMカードは月5ポンドだった。21人で再利用した結果、著者らはハードウェア費を参加者1人当たり約250ポンド、通信費を1人当たり月5ポンドと見積もった[1]

これは詳細な費用対効果分析ではない。訓練を行う理学療法士の時間、アカウント作成、端末管理、故障対応、回収、データ保護、継続相談の人件費は、この単純な端末費の比較だけでは分からない。それでも、デジタル包摂を無料の付加サービスと考えないための重要な情報である。

貸与は購入費を下げた一方、参加者には壊す、なくす、弁償するかもしれないという不安が生じた。全端末は損傷なく返却されたが、結果だけを見て不安が小さかったとは言えない。利用規約、責任の範囲、故障時の連絡先、本人へ不利益がないことを明確にする設計が必要である。

著者の結論、観察結果、因果効果を分ける

研究から直接観察されたこと

著者が結論したこと

著者らは、Wi-Fi対応端末、デジタルリテラシー訓練、継続支援をデジタル介入へ組み込むことは、デジタルリテラシーが低いCKD患者にとって実行可能で受容可能であり、今後の多施設確証試験または実装研究へ進む根拠になると結論した[1]

この研究だけでは確定できないこと

無作為化試験という名称だけで、すべてが因果効果になるわけではない。小規模パイロットで、アウトカムは実行可能性中心、介入は複合、対照群との接触量は不均衡、盲検化はできず、推測統計も行っていない。本研究が支持する最も堅い表現は、支援パッケージを含む経路で利用が増える可能性があり、確証試験へ進む実行可能性が示されたである。

Unknown Labの批判的論評

強みは、排除を研究デザインの外へ追い出さなかったこと

デジタル介入の試験は、端末と通信を持ち、オンライン登録できる人だけを対象にしやすい。そうすると、最初に排除された人は有効性の分母から消える。Walklinらは、機器アクセスまたはDHLSで対象を定義し、同意説明を非デジタルでも提供し、対面評価や電話評価も認めた。PPI、事前登録、進行基準、混合研究法、CONSORT・TIDieR・COREQを参照した報告も、パイロット試験としての透明性を高めている[1]

特に、量的な利用ログだけでなく、なぜ使えたか、なぜ使いにくかったかを5領域の面接で説明した点がよい。8/21対0/19という表だけでは「iPadを渡せばよい」と誤読しうる。面接は、価格、信頼、身体機能、認知、家族支援、組織の相談体制が一緒に働くことを示した。

最大の弱点は、支援の効果と研究参加の効果を分けにくいこと

Ex-Tab群には端末と訓練だけでなく、研究者との1対1接触、共同操作、フィードバック、必要時支援があった。対照群は登録とユーザーガイドが中心だった。したがって、群間差には、デジタル包摂支援だけでなく、支援者との接触量、期待、励まし、問題解決の機会の差が含まれうる。著者ら自身も、次の試験ではattention-matched controlやstepped-wedge designを検討している[1]

また、研究担当者は訓練、無作為化、一部の面接など複数の役割を担った。面接では社会的望ましさや力関係の影響を完全には除けない。研究者は守秘、率直な意見の歓迎、振り返り日誌、複数研究者による分析で軽減を試みたが、受容性の評価にはなお影響しうる。

「簡単にした端末」と「デジタルに自立した人」は同じではない

貸与iPadはKidney Beamだけへ入れるよう利用を制限されていた。これはログインや誤操作を減らし、一つの目的を達成するには合理的である。一方、一般のウェブ利用、行政手続き、家族との連絡などへ技能が広がったかは分からない。DHLSは対象選定時だけに測られ、12週後の変化は測られなかった。

したがって、この研究は「一般的なデジタルリテラシーを獲得した」と示すより、特定のデジタル作業を、設定済み環境と人の支援のもとで遂行できたと読む方が正確である。作業療法の視点では、能力を人の内部だけで測らず、課題と環境が合ったときに作業遂行がどう変わるかを見た研究として理解できる。

使わない選択を、排除と同一視してはいけない

面接では、対面のやり取りを好む、詐欺を避けたい、技術に自分との関連を感じないという経験も示された。支援を受けても利用が少ない人を、未達成の対象としてだけ扱うと、本人の選好や生活上の優先順位を見失う。

デジタル包摂の目標は、全員のデジタル利用率を上げることではない。必要なケア、情報、参加機会へ、本人が選べる方法で到達できることだ。本研究は支援付きデジタル経路を強くしたが、非デジタル経路の質や切り替え可能性までは試していない。ここがETIC 2.0から見た重要な不足である。

ETIC 2.0への支持、挑戦、更新案

区分この研究から受け取ることETIC 2.0で明確にすること
支持利用は本人の技能だけでなく、端末、設定、人の支援、組織の条件で変わるケア生態系の複数層を介入の構成要素として記録する
支持1対1訓練、反復、相談先が利用開始を支えた支援付き利用を例外対応でなく正式な経路にする
挑戦支援群でも43%は6回未満だった非利用・低利用・離脱を失敗として消さず、理由を分析する
挑戦貸与への不安、家族依存、専門職の時間が生じた支援負担と責任の移動をアウトカムに含める
挑戦デジタル経路しか比較していない対面、電話、紙、代理・共同利用との同等な到達を評価する
更新利用回数と健康・生活成果は別だった到達、利用、継続、健康、作業参加、公平性を段階別に測る

この結果から、ETIC 2.0のデジタル公平性評価を次の6段階へ更新する。

  1. 到達可能性: 端末、通信、費用、言語、アクセシビリティの障壁を越えられるか。
  2. 開始可能性: アカウント、認証、設定、初回操作を完了できるか。
  3. 回復可能性: 失敗、パスワード忘れ、通信不良の後に戻れる相談先があるか。
  4. 継続可能性: 症状、生活リズム、本人の目的に合う強度と頻度か。
  5. 成果変換: 利用が健康、生活、意味ある作業、社会参加へつながったか。
  6. 公平性と負担: 誰が利益を得ず、誰に時間、費用、責任、プライバシー負担が移ったか。

さらに、経路は一つに固定しない。デジタル単独、支援付きデジタル、電話、紙、対面、家族や専門職との共同利用を、同じ目的へ向かう正式な経路として設計する。重要なのは選択肢の数だけでなく、途中で経路を変えられること、どの経路でも情報とケアの質が落ちないことである。

現場で使うなら、何を確認するか

デジタルケアを導入する現場では、「スマートフォンを持っていますか」だけでは不十分である。

確認領域現場での問い
目的本人は何のために使うのか。生活上の意味があるか
端末・通信所有、貸与、データ容量、通信品質、修理時の代替があるか
操作文字、音声、手指、視覚、認知、言語に合うか
初期設定誰がアカウント、認証、アップデートを担うか
練習本人の実際の場面で、一緒に操作し反復できるか
支援困ったとき誰に、どの方法で、どの時間帯に戻れるか
責任故障、紛失、誤操作、個人情報の責任が明確か
代替経路電話、紙、対面、共同利用へ不利益なく切り替えられるか
評価ログイン数ではなく、健康、生活、作業参加まで追えるか

「使えない人には別対応する」では遅い。別対応を例外にすると、担当者の善意と余力に依存する。支援付き利用と非デジタル経路を最初からサービス仕様、予算、人員、評価指標へ入れる必要がある。

次に読む論文

次に読むべき論文は、Kidney Beam本体の多施設RCTである。

Greenwood SA, Young HML, Briggs J, et al. Evaluating the effect of a digital health intervention to enhance physical activity in people with chronic kidney disease (Kidney BEAM): a multicentre, randomised controlled trial in the UK. Lancet Digital Health. 2024;6(1):e23-e32. doi:10.1016/S2589-7500(23)00204-2[2].

Walklin論文は、デジタル介入へ入るための支援が実施できるかを調べた。次は、入った先にあるKidney Beam本体が、健康関連QOL、身体活動、費用などへどのような効果を示したかを読む必要がある。アクセス支援と介入本体の効果を分けることで、次の四つを順番に検証できる。

  1. 入口へ到達できるか
  2. 実際に利用できるか
  3. 健康や生活が改善するか
  4. その利益が、排除されやすい人にも公平に届くか

この順序を飛ばさなければ、「デジタルへ入れた」ことを「生活がよくなった」ことと混同せずに済む。

結論

Walklinらの研究は、デジタル排除を本人の技能不足として閉じず、端末、設定、対面訓練、継続支援を介入の一部として試した。案内だけの群よりEx-Tab群でKidney Beam利用が多かったことは、入口の設計が利用を左右するという重要な観察である。

しかし、この研究が確定したのは健康改善でも格差縮小でもない。小規模パイロットであり、支援の個別効果、通常サービスでの持続性、費用対効果、家族・専門職の負担、非デジタル経路との公平性は残された問いである。

ETIC 2.0が受け取るべき結論は、単に「支援を足せばよい」ではない。端末を持つ、使い始める、困った後に戻る、使い続ける、生活成果へ変えるという各段階を分け、負担の移動と別の経路まで含めて設計・評価することである。

参考文献

1. Walklin C, Briggs J, Freeman S, et al. A Digital Inclusion Intervention to Improve Access to a Digital Health Intervention Among Digitally Excluded Adults: Mixed Methods Pilot Randomized Controlled Trial. JMIR Form Res. 2026;10:e91438. doi:10.2196/91438

2. Greenwood SA, Young HML, Briggs J, et al. Evaluating the effect of a digital health intervention to enhance physical activity in people with chronic kidney disease (Kidney BEAM): a multicentre, randomised controlled trial in the UK. Lancet Digit Health. 2024;6(1):e23-e32. doi:10.1016/S2589-7500(23)00204-2

3. Walklin CG, Young HML, Asghari E, et al. The effect of a novel, digital physical activity and emotional well-being intervention on health-related quality of life in people with chronic kidney disease: trial design and baseline data from a multicentre prospective, wait-list randomised controlled trial (Kidney BEAM). BMC Nephrol. 2023;24(1):122. doi:10.1186/s12882-023-03173-7

4. Xue Z, Zhou N, Wu Y, Qi H. Digital exclusion in healthcare services: a scoping review. Int J Equity Health. 2026;25(1):37. doi:10.1186/s12939-025-02755-1

5. Rush KL, Seaton CL, Ross R, et al. Digital literacy training within interventions to support older adults with cardiovascular disease in using technologies: a systematic review. Int J Med Inform. 2026;211:106312. doi:10.1016/j.ijmedinf.2026.106312

6. Young HML, Castle EM, Briggs J, et al. The development and internal pilot trial of a digital physical activity and emotional well-being intervention (Kidney BEAM) for people with chronic kidney disease. Sci Rep. 2024;14(1):700. doi:10.1038/s41598-023-50507-4


執筆: Unknown Lab 編集部(AI支援) / 専門職確認: 作業療法士
本稿は公開済み査読論文を批判的に読み解いた未査読の論評であり、個別の診断、治療、リハビリテーションを指示するものではない。