同意した後に、データの使われ方が変わったら
一度の「はい」を、ずっと同じ約束にしない
30秒で読む
歩数や体調を記録するとき、誰に、何のために見せるかを考えて同意した。その後、使い道や共有先が変わったなら、最初の「はい」だけで本人の現在の希望まで分かったことにはならない。
ただし、変更のたびに同意を取り直せばよいわけでも、撤回すればあらゆるデータが消えるわけでもない。必要なのは、何が変わるかを知り、無理なく選び直し、その選択がどこまで実行されたかを確かめられることである。
本稿は、日本の公的指針と健康データの同意に関する研究から、この過程を考える。後半の設計案はETIC 2.0の更新候補であり、健康改善や信頼の向上を実証した方法ではない。
1. 歩数を見せるつもりだった
退院後の外出を少しずつ増やしている人がいる。本人は、歩いた距離とその日の疲れをアプリに記録し、担当の作業療法士と振り返っている。週末に近所の店まで行けたことも、翌日は休んだことも、生活を立て直す手がかりになる。
ある日、そのアプリから利用条件の変更が届く。今後は、蓄積した記録を別の組織による研究やAIの開発にも使うという。「サービスの改善」という説明はあるが、今までの記録も対象なのか、断っても記録を続けられるのかは、すぐには分からない。
本人は支援をやめたいのではない。歩数を見せることに反対しているわけでもない。ただ、担当者と振り返るために預けた情報が、別の目的で使われることには迷いがある。
これは論点を示す架空の場面であり、実在のアプリや患者の報告ではない。同じデータでも、使う相手と目的が変われば、本人にとっての意味は変わり得る。ここで「前に同意している」と答えるだけでは、その迷いを扱えていない。
問いは、データを使うか使わないかの二択ではない。本人が支援を受け続けながら、変わった条件を知り、自分の希望を伝え直せるかである。
2. 「同意」は何に対する同意か
まず、診療や支援を受けることへの同意、研究に参加することへの同意、個人情報を一定の目的で利用することへの同意は、同じものではない。本稿が中心に置くのは、支援の過程で集まるデータの使い方である。個別研究の倫理審査や、診療行為への説明・同意を置き換えるものではない。
「二次利用」とは、本稿では、当初の診療や支援とは別の研究・開発などにデータを使うことを指す。「撤回」は、それまでの同意を取り下げる意思表示である。一方、「利用停止」と「消去」は、データを扱う側が行う処理であり、意思表示そのものとは区別する。
日本の個人情報保護委員会の通則編は、利用目的の変更について、従来の目的と合理的な関連性がある範囲の変更と、その範囲を超える利用を分けている。前者では変更した目的の通知または公表が必要となり、特定した目的の達成に必要な範囲を超える利用では、法定例外を除き、あらかじめ本人の同意が必要となる。[1]
したがって、「変更なら必ず再同意」「規約を書き換えればどんな利用も可能」のどちらも、この整理を正しく表していない。さらに、第三者への提供には別の規律がある。利用目的の説明だけで、提供先に関する問題をすべて判断することもできない。[1]
法的にどの手続が必要かという問いと、本人が変更を理解して選べるかという問いは、重なるが同一ではない。通知が法的な要件を満たす場合でも、本人が通知を読めない、読む時間がない、支援を失うのが怖くて質問できない、といった状況は残り得る。後者をどう扱うかが、本稿の設計上の関心である。
以下で示す説明や支援の提案は、すべての場面に共通する法的義務の一覧ではない。適用される制度、データの性質、契約、研究計画によって判断は異なる。個別の適法性は、事業者の個人情報保護担当や適切な専門家と確認する必要がある。
3. 人はデータ共有そのものを嫌っているのか
本人の意思を「共有に賛成か、反対か」だけで捉えると、見落とすものがある。
Bainesらの系統的レビューは、健康データの第三者利用・二次利用に対する患者や一般市民の考えを扱う135論文をまとめた。共有への支持は一律ではなく、データの内容、受け手、目的、信頼、本人が選べる範囲などの条件と関わっていた。[2]
ただし、この研究は、ある同意画面を使えば健康や信頼が改善すると示した介入試験ではない。公表は2024年だが検索は2021年8月であり、採用対象は2011〜2021年の英語論文である。個々の研究のバイアスリスク評価も実施されていない。現在の日本の全利用者や、生成AIへの態度を代表する割合として読むことはできない。[2]
この限界を踏まえても、冒頭の人が「担当者との振り返りには使いたいが、別の開発用途には迷う」と考えることは、単なる矛盾として片づけられない。データの共有は、一つの固定した好みではなく、関係と条件に応じた判断として扱う余地がある。
ここから導く本稿の推論は、賛否を一度だけ記録するよりも、何に同意し、どの条件が変わったかを対応づける方が、本人の迷いを具体的な相談につなげやすい、というものである。この相談のしやすさ自体は、なお検証すべき対象である。
4. 選び直せる仕組みは、すでに提案されている
同意を時間の中で捉える考えは、ETIC 2.0が初めて提案するものではない。
Kayeらの「動的同意」は、研究参加者と研究者が継続して情報をやり取りし、参加者が同意の選択を見直せるようにする考え方である。主に、試料やデータを長期間保管して研究に用いるバイオバンクの文脈で提案された。2014年オンライン公表、2015年巻号掲載の概念論文であり、日常のケアでの健康改善を検証した試験ではない。[3]
重要なのは、紙の同意書を画面へ移すことと、後から選び直せることが違う点である。電子署名を保存できても、何を許したのか確かめられず、希望が変わったときに連絡もできなければ、継続的な選択を支える機能は乏しい。
Teareらの振り返りは、動的同意の実装例とともに、費用、デジタル利用の格差、同意を繰り返し求める負担などの論点を扱っている。動的同意は、何でも毎回聞き直す固定的な方式ではなく、関与の仕方を調整する発想を含む。もっとも、この論文も、すべての実装に共通する効果量を示した比較試験ではない。[4]
この先行研究を生活支援へつなぐなら、新しい同意アプリを導入すること自体が目標にはならない。すでにある説明書、相談窓口、記録システムで選択の変更を受け付け、処理へ反映できるなら、それを生かす方がよい場合もある。
逆に、画面上では「撤回しました」と表示されても、データを利用する部署へ伝わっていなければ、本人の選択は表示だけにとどまる。必要なのは、選べる画面と、選択を実行する組織をつなぐことである。
5. 何が変わり、何を選び直せるのか
冒頭の通知を、本人と支援者が一緒に読む場面を考える。長い規約の全文をその場で理解してもらう前に、少なくとも次の違いを説明できるかを確かめたい。
| 変更の対象 | 本人に分かる形で確かめること |
|---|---|
| 目的 | 日々の支援のためか、別の研究・開発のためか |
| 受け手 | 今までの担当者以外に、誰がどの立場で使うのか |
| 対象の記録 | これから集まる情報だけか、過去の記録も含むのか |
| 保存と派生利用 | いつまで保持し、分析結果や学習済みモデルへどう使うのか |
| 選択後の生活 | 断る・保留する・撤回する場合、何が使えなくなり、代わりはあるか |
この表は本稿の説明用整理であり、法的要件を網羅する書式でも、検証済み尺度でもない。
ここで支援者が担えるのは、本人の疑問を具体化し、読みにくい説明を一緒に確かめ、必要な担当者へつなぐことである。データ利用の適法性をその場で保証したり、事業者の内部処理を書き換えたりする権限まであるとは限らない。
例えば本人が、日々の記録は続けたいが開発利用は断りたい、と希望する。そのとき提供者が両者を分けられるなら、その選択を記録し、反映を確認する。分けられないなら、「選択肢はない」で終わらず、分けられない理由と、記録の持ち出しや別の支援方法の有無を確認する。ただし、代替手段が同じ費用・機能で必ず用意できると約束してはならない。
また、家族が画面操作を手伝ったことと、本人に代わって同意できる権限があることは別である。本人が理解・表明しやすい支援を先に考え、代理による手続が必要なら、その根拠と範囲を確認する。支援者が便利さを優先して選択を代行すれば、選び直せる仕組みそのものが本人から遠ざかる。
6. 撤回したら、どこまで止まるのか
同意の撤回を「時間を巻き戻すボタン」と考えると、誤った期待を生む。
欧州データ保護会議の同意ガイドラインは、GDPRの下で、同意を与えるのと同程度に容易に撤回できることを求めている。一方、撤回前に適法に行われた処理が、撤回によって過去にさかのぼって違法になるわけではない。同意に依拠する処理の停止と、別の適法な目的・根拠で保持するデータの扱いを区別し、撤回を避けるために後から根拠をすり替えることも認めていない。[5]
これはEUの制度についての説明であり、日本で同じ権利や手続が一律に適用されるという意味ではない。日本の通則編も、保有個人データの利用停止等について要件と対応範囲を定め、法令による保存義務がある場合の扱いも示している。撤回の申し出だけで、あらゆる記録を即時に全消去するという単純な整理にはならない。[1]
実務上の説明では、少なくとも次の処理を一つの「削除済み」にまとめない方がよい。
| 確認する処理 | 本人へ返す説明の例 |
|---|---|
| 今後の利用 | どの目的の利用を、いつから止めたか |
| 保管中の元データ | 何を消し、何を、どの根拠と期間で残すか |
| 提供先への対応 | どこへ連絡し、どこまで処理完了を確認できたか |
| 派生物への対応 | 集計結果や学習済みモデルを別に確認する必要があるか |
これは、各処理が常に法的に義務づけられるという表ではない。実行した範囲と未解決の範囲を混同しないための、本稿の提案である。
学習用データを消すことと、すでに学習したモデルをどう扱うかも同じではない。英国ICOの指針は、この二つを区別し、モデル自体に個人データが含まれる、またはそこから推測できる場合を別に扱っている。なお、当該指針は法改正を受けて見直し中と明記されているため、ここでは技術と説明の対象を分ける参考として用い、英国の最新の個別法務判断には用いない。[6]
「AIは一度学んだら絶対に消せない」と断定することも、「元データを消したから影響もすべて消えた」と断定することも避けるべきである。必要な処理と確認方法は、データ、モデル、利用状況によって異なる。現場で確認できないことは、未確認として提供者へ照会する。その際、本人に技術的な証明を集める責任まで負わせないことが重要となる。
7. 確認を増やせば、本人のためになるのか
丁寧に聞くことには価値がある。しかし、選択の要求を増やすことが、常に本人を尊重するとは限らない。
毎週のように通知が届き、何ページも読まないと記録を続けられないとする。体調が悪い日や、画面の操作に時間がかかる人にとっては、選択できるはずの仕組みが、利用を続けるための負担になり得る。通知を開かなかったことを、賛成とも反対とも安易に解釈してはならない。
de Manらは、日常診療で蓄積された健康データを研究へ再利用するときの、オプトインとオプトアウトを扱う15研究を検討した。オプトインは明示的な参加の意思表示を求める方式、オプトアウトは所定の条件で拒否の機会を設ける方式である。レビューでは、方式による同意率や参加者の偏りの違いが報告された。ただし、オプトアウトを含む研究は2件だけで、対象や手続も異なり、単純に一方が優れているとは結論できない。[7]
そもそも同意率の高さは、理解や自由な選択の質と同じではない。この研究を根拠に、拒否が少ない方式を選ぶべきだとは言えない。むしろ、確認の手続が、研究へ参加する人の範囲にも影響し得るという問題を受け止める必要がある。
本稿の提案は、何でも同じ頻度で問い直すことではない。本人の判断を実質的に変え得る変更を見分け、変わった部分を短く説明し、詳しい情報へ進めるようにする。そのうえで、本人が希望する説明の方法や支援を選べるかを確かめる。電話や紙などの経路を検討する場合も、窓口を置いただけで同等に利用できるとは扱わない。待ち時間、費用、受付時間、支援者の負担まで確認が必要である。
説明を短くするために、重要な不利益や残存データの情報を省いてはならない。簡潔さは、内容を隠すことではなく、判断に関わる違いを先に伝えることである。
8. ETIC 2.0で、何を見直すか
考え方と重なる点
ETIC 2.0は、本人の意味ある生活行為を、人、道具、情報、制度の関係の中で考える。同意の問題も、本人の理解力だけでは決まらない。説明の届き方、相談できる相手、データ利用側の権限と手続が関わるという点で、ここまでの先行研究と考え方が重なる。
ただし、重なることはETIC 2.0の有効性を支持する直接の証拠ではない。動的同意や既存の個人情報保護の仕組みだけで、必要な説明と対応を実現できる可能性もある。
答えるべき問い
生活支援へこの考え方を加えると、本人は変更を理解しやすくなるのか。断りたい人が断れ、使い続けたい人が不必要に支援を失わずに済むのか。本人の選択は実際の処理へ反映されるのか。それとも、説明書と記録を増やすだけなのか。
特に、画面を使いこなせる人だけで評価すれば、支援を必要とする人の困難を見逃す。説明を受けても判断を保留した人や、途中でやめた人の経験も、適切な倫理的配慮の下で検討対象にする必要がある。
具体的な見直し案
本稿は、変更の前後をつなぐ三つの確認を提案する。第一に、以前の約束と新しい使い方の違いを説明できるか。第二に、断る・保留する・撤回するという選択を、本人が無理なく伝えられるか。第三に、その選択を実行した範囲と、残るものを返答できるかである。
これらは新たな尺度や固有の理論機構ではなく、先行研究と制度を生活支援へつなぐ整理である。独自の追加価値は未検証であり、既存の仕組みで足りるなら新しい様式を増やす必要はない。
検証するなら、まず架空データによる場面課題で、通常の説明と変更点を明示した説明を比較することが考えられる。正しく理解できた範囲、意思表示のしやすさ、所要時間、疲労や迷いを分けて調べる。実運用へ進む場合には、担当者の処理記録と本人への返答が一致したか、必要な支援の中断が増えていないかも確かめたい。具体的な対象数や判定基準は事前に定める必要がある。
理解や対応が改善せず負担だけ増えるなら、この案は簡略化または取り下げるべきである。少人数の課題でよい結果が出ても、長期的な健康改善やデータ被害の予防を証明したことにはならない。
9. 同意を「終わった手続」にしない
冒頭の人に必要なのは、データの仕組みをすべて理解することでも、開発者と同じ権限を持つことでもない。自分の記録が何に使われるのか、何が変わるのかを知り、希望を伝え、その後どうなったかを確かめられることである。
支援者にも、変更できるものとできないものがある。画面の説明を手伝うことはできても、提供済みデータや学習済みモデルへの対応を自ら完了できるとは限らない。だからこそ、できないことを本人の理解不足に戻さず、権限のある相手へつながる経路を整える必要がある。
一度の「はい」は、将来のどんな使い方にも賛成するという意味ではない。同時に、選び直すことは、過去をすべて消し去ることでもない。この二つをともに正直に説明し、本人の選択を実際の対応につなげることが、変わり続けるデータ利用をケアの中で扱う出発点となる。
調査範囲と限界
2026年9月27日までに確認した公的資料、査読済みの概念論文とレビューを用いた対象限定の検討であり、本稿自体は系統的レビューではない。法令・指針は制度上の説明、レビューは既存研究の整理、生活場面と設計案は本稿の推論・提案として区別した。異なる国の制度、研究同意、一般サービスの同意を一つの義務へ統合していない。
本人の健康、作業参加、信頼への効果は未検証である。個別の法律判断、診療判断、データ削除や製品改変の指示を目的としない。
参考文献
- 個人情報保護委員会. 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編). 2026年6月一部改正. 3-1-2、3-1-3、3-6、3-8-5. https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/ (2026-09-27確認).
- Baines R, Stevens S, Austin D, et al. Patient and Public Willingness to Share Personal Health Data for Third-Party or Secondary Uses: Systematic Review. J Med Internet Res. 2024;26:e50421. https://doi.org/10.2196/50421
- Kaye J, Whitley EA, Lund D, Morrison M, Teare H, Melham K. Dynamic consent: a patient interface for twenty-first century research networks. Eur J Hum Genet. 2015;23:141-146. https://doi.org/10.1038/ejhg.2014.71
- Teare HJA, Prictor M, Kaye J. Reflections on dynamic consent in biomedical research: the story so far. Eur J Hum Genet. 2021;29:649-656. https://doi.org/10.1038/s41431-020-00771-z
- European Data Protection Board. Guidelines 05/2020 on consent under Regulation 2016/679. Version 1.1. 2020. Sections 5.2-6, paragraphs 112-123. https://www.dpa.gr/sites/default/files/2020-07/edpb_guidelines_202005_consent_en.pdf (ギリシャ監督機関掲載の原文、2026-09-27確認).
- Information Commissioner's Office. How do we ensure individual rights in our AI systems? https://ico.org.uk/for-organisations/uk-gdpr-guidance-and-resources/artificial-intelligence/guidance-on-ai-and-data-protection/how-do-we-ensure-individual-rights-in-our-ai-systems/ (2026-09-27確認、法改正に伴う見直し中の表示あり).
- de Man Y, Wieland-Jorna Y, Torensma B, et al. Opt-In and Opt-Out Consent Procedures for the Reuse of Routinely Recorded Health Data in Scientific Research and Their Consequences for Consent Rate and Consent Bias: Systematic Review. J Med Internet Res. 2023;25:e42131. https://doi.org/10.2196/42131
著者・利益相反・位置づけ
Daiki Morimoto / Unknown Lab. ORCID: 0009-0009-6444-750X.
本稿はETIC 2.0の提案者による設計・検証ノートであり、提案を検討する著者自身の立場を有する。独立した有効性評価でも、査読済み研究報告でもない。調査、草稿、図版および制作工程にAIを利用した。著者確認と公開承認は2026年9月27日に完了した。独立した専門職レビューは未了である。キービジュアルは架空の場面を表すAI支援制作の説明用イラストであり、実際の利用者・製品・効果を示していない。
ライセンス: CC BY 4.0。原著論文・公的資料の権利はそれぞれの権利者に帰属する。