AI支援の調整案を、どう比較するか
変えられる条件から、比べる支援案へ
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AI支援の調整案は、実際に変えられる条件を明記し、AIを使わない案も含めて、同じ生活目標に対する利点・負担・不確実性を比べる。実行権限のない変更や、本人が認めていないデータ共有を、便利さの点数で採用してはならない。
この比較は、既存の意思決定支援や比較表から始められる。CCEは、その後に残る「誰の情報・提案・返事が、どの規則で決定につながるか」を計算可能にする研究構想である。現在の公開モデルは合成入力による内部検証の段階であり、その人に最適な支援を選ぶ実用システムではない。
前回のノート07は、支援を試した後に効果をどう確かめるかを扱った。今回は、その前に比較対象をどうつくるかを扱う。モデルを大きくすることではなく、検証する問いを具体化することが目的である。
「AIを調整する」の中身をほどく
夕食を自分で一品つくりたいミナさんを考える。以下は説明用の架空の場面であり、製品評価や観察事例ではない。料理を行うための必要な支援は既に確保されているとし、ここでは任意の手順案内だけを比べる。
ミナさんは、食材から献立と手順を提案する音声AIを使っている。ところが、途中で別の作り方が次々に提案されると、どの手順を進めていたか分かりにくい。家族は毎日の記録をAIへ渡す方法を提案したが、ミナさんは生活記録の自動共有を望んでいない。
この場面で「AIを本人に合わせよう」と言っても、調整対象は一つではない。提案の出し方を変える、入力する情報を限定する、調理中はAIを使わず確認済みの手順を見る、といった別々の変更がある。AIの学習済みモデル自体を書き換える権限があるとは仮定できない。
ここでは、この架空の製品で利用者が指示文を変更でき、会話の途中に入力する情報を選べると仮定する。一方、基礎モデルの再学習や、提供会社が保持する既存データの処理は利用者の操作だけでは変更できない。この区別を曖昧にすると、実装できない案と実装できる案を同じ土俵で比較してしまう。
| 調整対象 | この例で扱える変更 | 比較へ進む条件 |
|---|---|---|
| 利用時の指示 | 本人が求めたときだけ別案を出すよう依頼 | 指示できることと、出力が従うことを別に確認する |
| 入力情報 | 本人が選んだ食材と当日の希望だけを渡す | 保存・共有の実際の設定と本人の了解を確認する |
| 運用 | 開始前に手順を確認し、調理中は紙を見る | 紙の内容を更新する担当と手間を確認する |
| 提供会社側の処理 | 基礎モデルや保持済みデータの扱い | 利用者が変えられると扱わず、提供会社への照会事項にする |
ここでいうチューニングは、こうした支援条件を調整するという広い意味で用いる。学習データを使ってモデルを追加学習させる技術的なファインチューニングとは区別する。計算モデルを導入しても、製品の変更権限が新たに得られるわけではない。
まず、同じ目的に向かう候補をつくる
比較の目的を「最新のAIを使う」ではなく、「選んだ一品を、本人が納得する手順でつくる」と置く。この目的なら、AIを使わない案も比較相手になる。NICEの共同意思決定ガイダンスも、選択肢の利益・不利益・本人の目標を話し合い、現在の方法を変えない選択を含めるよう勧めている。[1]
この例では、現在の使い方を基準に残し、次の二つを候補にする。Aは音声AIに「開始後は求められたときだけ別案を出す」と指示する方法、Bは開始前に確認した手順を紙で見る方法である。どちらも本人の同じ料理目標を支え、必要なケアの取り上げを伴わない条件とする。
家族が毎日の記録を自動共有する案Cは、本人の了解がない現在の条件では実行候補にしない。将来、本人が別の共有範囲を選び、設定と提供条件を確認できたなら、別の条件を持つ案として再検討できる。家族の提案を消すことと、未承認のまま実行しないことは区別する。
| 比較項目 | A:音声AIの指示を変更 | B:確認済みの紙の手順 |
|---|---|---|
| 期待する働き | 状況に応じた質問を受けながら、余計な別案を減らす | 手順を固定し、途中の提案変更をなくす |
| 開始前の作業 | 指示の設定、出力の確認 | 手順の作成と内容確認 |
| 調理中の負担候補 | 聞き直し、誤った提案の訂正 | 紙の参照、状況が変わったときの確認 |
| データの条件 | 入力・保存・共有範囲の確認が必要 | 紙だけなら調理中のAI送信は生じない |
| まだ分からないこと | 指示遵守、本人の使いやすさ、実際の手間 | 紙の見やすさ、変更への対応、実際の手間 |
表の「期待する働き」は効果の測定結果ではない。例えばAは、指示文を書けてもAIが必ず従うとは限らない。Bも、紙にしただけで本人が使いやすくなるとは限らない。候補を記述する段階では、分からない欄を高得点で埋めず、確認事項として残す。
この架空例では、ミナさんが手順の固定をまず試したいと選び、支援者と内容を確かめたBを試行候補にする。成立したのは「本人が選んだ、実施条件を説明できる比較案」であり、料理が楽になったという結果ではない。Aの使いやすさが後に確認されれば、Aを選ぶ余地も残る。
比較表で足りるなら、そこで止めてよい
選択肢を明示し、根拠を示し、本人が大事にすることを整理する支援には先行研究がある。2024年のCochraneレビューは、治療・検診を選ぶ成人を対象とする209研究、107,698人を含む。通常ケアに比べ、意思決定支援ツールによる知識得点の改善は100点尺度で平均11.90点、95%信頼区間10.60〜13.19点だった。この推定は107研究、25,492人に基づき、レビューでは確実性が高いと評価された。[2]
これは「比較を助けること」に根拠があるという手掛かりである。ただし、料理の支援、生成AI、CCEを調べた結果ではない。本稿ではレビューの抄録を確認した範囲を用い、全研究の個別評価は行っていない。知識が増えることから、健康や生活が改善すると直結させない。
利点と負担が複数あり、比較が複雑な場合には、MCDA(複数基準意思決定分析)という既存の方法群もある。ISPORの方法論報告は、決めたい問題、候補、基準、根拠、選好、不確実性を明示する。評価項目の重複による二重計上や、設定を変えたときの結果も点検対象になる。[3]
例えば「AIへの聞き直し回数」と「聞き直しに費やした時間」を別々に加点・減点すれば、同じ負担を二重に数える可能性がある。一方、家族と本人の負担が違うなら、誰の負担かを消して一つにまとめる必要はない。MCDAにも個々の判断を保ったまま比較する考え方があり、すべてを総合点へ平均する方法だけを指すのではない。[3]
本稿の表は、重みや効用関数を定めた正式なMCDAではない。まず候補と判断材料を並べるための表である。この段階で選ぶ理由と残る疑問が説明できるなら、専用の数式やCCEの追加は不要かもしれない。
順位より先に、判断が変わる条件を見る
AIの案を選ぶ根拠が「確認の手間が少ないから」なら、どこまで少なければ判断が変わるのかを調べられる。ここでも、人の価値を数値に変える必要はない。
説明のため、同じ期間に同じ料理を案内する準備・確認の総時間だけを考える。Aの初期設定は10分、その後の確認は1回につき2分、Bの紙の準備は18分、その後の確認は1回につき1分と仮定する。どちらも同じ担当者の作業時間とし、食材や手順の変更がない場合だけを扱う。数値はすべて創作であり、実測や推奨値ではない。
4回使うならAは18分、Bは22分。12回ならAは34分、Bは30分となる。この仮定では8回で同じ26分になり、利用回数によって時間上の順序が入れ替わる。しかし、Aの毎回の確認が2分ではなく3分かかるなら、同じ時間になるのは4回である。
この小さな計算で得られるのは「Aがよい」という答えではなく、今後何回使うかと、毎回の確認にどれだけかかるかが判断を左右するという情報である。本人の使いやすさが異なるなら、時間だけでは選べない。情報共有の了解がない案Cも、短時間で済むという仮定では実行候補に戻らない。
こうした感度分析は、仮定を動かしたときに結論がどこで変わるかを見る方法である。実際の値を確かめる優先順位をつける助けにはなるが、現実の結果を正しく予測した証明にはならない。医療モデルの検証に関する方法論でも、感度分析は妥当性の検証を補うもので、代わりにはならないとされる。[4]
CCEへ渡すのは、何が残ったときか
ETIC 2.0は、人・技術・環境・制度の関係から支援を考える枠組みとして提案されている。[5] その視点で変更候補を絞った後、誰の情報がどう採用され、本人の返事や権限の確認が決定をどう変えるかを、規則として調べる研究がCCE(Computational Care Ecology)である。[6,7]
CCEの現在の公開モデル、CCE-MVM v0.1には、決定場面の記録と規則を扱うM0、本人についての見立ての更新を扱うM1、AI提案と架空の応答との関係を扱うM2がある。人の価値や能力を採点せず、提案、本人の返事、権限・権利に関する条件、主体別の結果を区別する。これは著者が定めた研究用の構成である。[6]
例えば、実行条件が「確認済み」なら決定へ進み、「未確認」なら止まる、という規則を入力の組合せごとに検査できる。ただし、入力された「確認済み」が現実に正しいかを、現在のモデルが自動的に確かめるわけではない。止まった後の生活への影響もモデル化されておらず、停止という出力だけで安全が保証されるものでもない。[6]
ミナさんの料理例について、現在のCCEが所要時間、料理の達成、家族負担を予測して最適案を選ぶ、と説明することはできない。公開研究は人のデータを用いず、定めた規則と計算が指定条件で一致するかを内部検証したものだ。四者の長期相互作用を一体的に再現するモデルや、実証済みの個別化支援システムではない。[6]
それでも、候補表をつくる過程で「本人の変更希望があるのに、記録のどこにも反映先がない」「AIの見立てと本人の返事が同じ値で上書きされる」といった具体的な不足が見つかれば、その不足を表現する計算規則を研究する理由になる。これは今後の検証課題であり、CCEを必ず採用する結論ではない。
追加価値を確かめるなら、同じ情報と課題を与えた既存の比較表や意思決定支援との比較が要る。無許可の案を実行候補へ入れないか、本人の変更希望を取りこぼさないか、不明な情報を確認済みとして扱わないかを点検し、作成・確認の手間も比べる。既存方法で同じ問題を同じ程度の負担で処理できるなら、新しい仕組みを増やす理由は弱くなる。これらはUnknown Labの未実施の比較案であり、今回その成績を測ったわけではない。
ETIC 2.0に何を戻すか
考え方と重なる点
支援の効果だけでなく、本人の目的、実行条件、周囲の負担を並べて考える点は、既存の意思決定支援とETIC 2.0の考え方に重なる。先行研究の成果は、それぞれが評価した方法についての知見として扱い、ETIC 2.0の直接検証とはしない。
ETIC 2.0が答えるべき問い
「調整できる」と記した項目を、実際に誰がどの操作で変えるのか。変更後に何を比べれば、その操作を続ける理由になるのか。AIが候補整理や条件の照合を担える場合も、計算できる範囲と、実行してよい範囲を追える必要がある。人に残る仕事をあらかじめ固定するのではなく、能力、許可、結果を別々に検証する問いである。
具体的な見直し案
ETIC 2.0で挙げた変更候補に、「具体的な変更操作」「同じ目的に向かう比較相手」「実行の前提」「判断が変わる不確かな条件」を結びつけることを提案する。既存の支援計画に書けるなら新しい書式は増やさない。計算モデルへの受け渡しは、その記録だけでは扱えない問題が明らかになった場合に限る。この案が見落としを減らすかは未検証であり、記録負担が増えるだけなら縮小する。
結論
AI支援の調整案を比較するには、変更可能な操作を特定し、同じ生活目標に対する代替案を並べ、判断を左右する不確実性を確かめる。ミナさんの例では、AIの中身を改造せずに、指示の変更と紙の手順を比較できた。本人が認めていない自動共有は候補から外し、実際の使いやすさは試した後の検証へ残した。
ここまでを既存方法で行えるなら、それを使えばよい。CCEへ進む意義は、残った情報・返事・権限・決定の関係を、確かめられる規則にできるかにある。ETIC 2.0からCCEへの接続は、何でも計算することではなく、何を変え、何と比べ、どの答えなら判断を変えるのかを明示することから始まる。
調査と位置づけ
本稿は2026年10月25日までに確認した公的ガイダンス、方法論論文、レビュー抄録、Unknown Labの公開資料を用いた論点別の統合であり、系統的レビューではない。NICEの該当勧告、MCDA報告の関連節、モデル検証論文の関連節、CCE公開PDFの定義・範囲を照合した。Cochraneレビューは抄録の結果に限定した。架空例と時間計算は説明用であり、人を対象とする研究もCCEの新しい実験も実施していない。
未査読、独立専門レビュー未実施。著者はETIC 2.0・CCEの提案者であり、AI支援を用いて調査・執筆した。個別の診療、調理の安全性、同意の有効性を判定する手引きではない。
参考文献
[1] National Institute for Health and Care Excellence. Shared decision making. NG197. 2021. 勧告1.2.9〜1.2.17、1.3.1〜1.3.3. 公式ガイダンス.
[2] Stacey D, Lewis KB, Smith M, et al. Decision aids for people facing health treatment or screening decisions. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2024;1:CD001431. doi:10.1002/14651858.CD001431.pub6. 確認した抄録.
[3] Marsh K, IJzerman M, Thokala P, et al. Multiple Criteria Decision Analysis for Health Care Decision Making: Emerging Good Practices. Report 2 of the ISPOR MCDA Emerging Good Practices Task Force. Value in Health. 2016;19(2):125–137. doi:10.1016/j.jval.2015.12.016.
[4] Eddy DM, Hollingworth W, Caro JJ, et al. Model Transparency and Validation: A Report of the ISPOR-SMDM Modeling Good Research Practices Task Force–7. Medical Decision Making. 2012;32(5):733–743. doi:10.1177/0272989X12454579.
[5] Morimoto D. ETIC 2.0. Version 2.1. 2026. Unknown Lab. doi:10.5281/zenodo.21848456.
[6] Morimoto D. Computational Care Ecology: Synthetic Experiments and Internal Verification of CCE-MVM v0.1. 2026-09-16 manuscript; Zenodo公開2026-09-19. 未査読プレプリント. doi:10.5281/zenodo.22845650.
[7] Morimoto D. CCE: AIとともにあるケアを、数理モデルから考える. 2026-09-18 version; Zenodo公開2026-09-19. 未査読解説資料. doi:10.5281/zenodo.22845677. 概要.