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なぜAI時代に新しいケアモデルが必要なのか

「AIを導入するかどうか」ではなく、「AIを含むケアの条件をどう設計するか」。問いが変わった背景を整理します。

ここ数年で何が変わったのか

AIは「いつか使われる技術」ではなくなり、仕事、教育、研究、医療支援、記録、相談、文章作成、画像理解、意思決定支援の中に入り始めました。生成AIは文章を作るだけでなく、画像、音声、動画、医療記録、生活データなど複数の情報を扱う方向へ進んでいます。WHO(世界保健機関)は、大規模マルチモーダルモデルが医療、研究、公衆衛生、医薬品開発で広く利用される可能性を整理し、医療AIの設計、導入、利用において倫理、人権、説明責任、ガバナンスを中心に置く必要を示しています。米国FDAは、AIを組み込んだ医療機器の公開リストを示しており、AIはすでに規制と実装の対象になっています。

一方で、AIの普及は単純な進歩だけを意味しません。AIは誤った情報を出すことがあります。判断根拠が見えにくいことがあります。AIの出力を人間が過信する自動化バイアスも問題になっています。生活データを扱う場合には、プライバシー、同意、二次利用、セキュリティ、公平性が問題になります。

つまりAI時代の課題は、「AIを使えば便利になる」という話ではありません。AIをどの場面で使い、誰が確認し、誰が責任を持ち、どのデータを使い、本人の生活や尊厳をどう守るのかが問われています。

ケアは診察室の外へ広がっている

ケアは、病院や施設の中だけで完結しません。退院後の生活、在宅生活、家族の支援、地域資源、通院手段、住宅環境、仕事、学校、スマートフォン、センサー、電子カルテ、遠隔支援、保険制度がつながって、はじめて支援は機能します。WHOはリハビリテーション需要が世界的に高まっていることを示し、「Rehabilitation 2030」を通じてリハビリテーションを保健システムの中核課題として位置づけています。

ここで作業療法の視点が重要になります。作業療法は、もともと人を身体機能だけでなく、日々の生活、作業(本人にとって意味・目的・価値を持つ生活行為。仕事に限らず、家事、学び、遊び、人との関わりを含む)、参加、環境との関係から捉えてきた専門領域です。しかしAI時代には、この「環境」の中に、AI、データ、デバイス、通信環境、電子カルテ、アルゴリズム、制度も入ってきます。これらは単なる道具ではなく、記録、評価、予測、判断、連携、責任分担、アクセス格差に影響します。

AIはケアの「道具」だけではない

AIを単なる道具として扱うと、問題の大きさを見誤ります。たとえば、在宅高齢者の転倒リスクを予測するAIがあるとします。そのAIが「高リスク」と判断したとき——

このような問いは、AI単体の性能だけでは解けません。ケアの関係者、生活環境、制度、データの流れ、責任分担を一緒に設計する必要があります。

だから、設計のためのモデルが必要になる

従来のケアモデルの多くは、AIやデータ基盤が生活環境の一部になる状況を前提にしていませんでした。必要なのは、本人、家族、専門職、AI、デバイス、データ、環境、地域、制度を一つのケア生態系として捉え、意味ある作業、参加、尊厳、持続可能なケアが生まれる条件を設計するための枠組みです。

ETIC 2.0(エコテクノロジカル・インテグラティブ・ケア)は、この問いに答えるために、作業療法が積み重ねてきた「作業、参加、環境、社会的公正」の視点を、AIとデータを含むケア環境へ拡張したモデルです。既存の作業療法モデルを置き換えるのではなく、それらの蓄積をAI時代のケア設計へ接続します。

本記事で言及したWHO、FDA、自動化バイアス研究などの出典は、ETIC 2.0 PDFの参考文献一覧(32点)に収録しています。

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